エッセイ参考作

『あの頃』

あの頃は夢だった。夢の中の君はとても輝いていた。
僕は写真がまだ下手で、だけど、君の笑顔ははちきれんばかりだった。
もう一度、あの頃に戻りたくて、僕はたくさんの努力をした。
なのに、生活のために仕事を増やしていくと、ますます僕らは疎遠になった。
僕が新聞や雑誌に載ると、君は嫌な顔をした。僕が勧める映画も見なくなった。
僕の色に染まっていた君は、僕が作家になったら、僕から離れていった。

君が欲しいのはなに?
僕の何が欲しいの?
僕は愛情もお金も、かわいい子猫たちも君にあげた。
大きな家も建ててあげた。
なのに、君の笑顔はどんどんなくなって、暗いばかりの日々が続く。

僕は一人だ。誰も僕のそばにいない。

あの頃、もし僕が、作家をあきらめていたら。
あの頃、もし僕が、負け犬になっていたら。
あの頃、もし、僕が、病に負けて死んでいたら。
きっと君は幸せになっていたに違いない。
君が愛した僕は、夢を追いかけていた僕で、夢を掴んだように見える僕には、君は興味がないんだ。

だけど、君は僕の夢を知らない。
僕の夢を知っているのかい?
僕の夢は、かわいい女の子が、ずっとそばに居てくれることだ。
仕事の時も、病の時も、熟睡している時も。
あの頃の君は、僕のそばに居てくれた。
六畳一間のアパートで、君とリリーが居てくれた。
あの頃‥‥。
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